葉祥明美術館

オススメ Vol.48「美しい朝に」

「美しい朝に」
1972年に絵本「ぼくのべんちにしろいとり」でデビューし、今年で画業40周年を迎える葉祥明。デビュー当初、絵本のテーマはほのぼのとしたもので、子ども向けの可愛らしいものでした。その後、たくさんの作品を発表しますが…絵本にエコロジーのメッセージを込めるようになっていきます。そのひとつのきっかけになったのが、1986年に起こったチェルノブイリ原発事故でした。

もともとルソーの「エミール」やヘンリー・デビット・ソロー「森の生活」を何度も読み、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」からも影響を受け、環境問題に深い思いを持っていました。そんな中チェルノブイリ原発事故が起き愕然としたと言います。本に示されていて警告が作家の中で蘇り、思い出させたのです。それ以来、エコロジー関係や原発の本を読みあさり、より深くその実情を知る事となります。以前のインタビューで「何が一番心に痛かったかというと、罪のない子供達や動物たちが被害をうけていること…」と語っています。その小さな命の叫びをうけて「ぼくのあおいほし」(偕成社刊)という原発によって死滅する地球を描いた絵本を作り、次に「はなはどこにいったの」(教育画劇)というレイチェル・カーソンの「沈黙の春」をイメージした絵本を描きました。

実はこの2冊の絵本以外にも、当時描いた作品がもうひとつありました。それが、2011年に出版された「美しい朝に」です。当時は出版されることなく眠っていた作品が、2011年の福島第一原発事故を受け25年の歳月を経て、語りかけています「美しい朝とは…?」

描かれた当初の作品には、所々に短い言葉が添えられるだけで、静かに心の奥深くに届く絵本でした。2011年に出版された際も、原作に近く出版され「言葉」の少ない絵本となっています。

ですが出版された後、想いがあふれ言葉が生まれました。より多くの人に知ってもらう為にも、言葉が大切な手段となります。

今回、北鎌倉 葉祥明美術館ではあふれ出た「言葉」が原画と共に紹介されています。ストーリーの入った絵本「美しいいます。ストーリーの入った絵本「美しい朝に」はより明確にメッセージを伝えています。是非、ご覧下さい。

最後に「あとがき」に書かれた葉祥明のメッセージをご紹介します。

                ***

この絵本はとても静かです。
しかし、そこには深い祈りがあります。
いのちの未来をこよなく大切に思う感性が、
原発をなくし、この世を少しでもよくしていくための
力となることを願って…
原発事故・災害ほど、日々の生活と暮らしを根底から揺さぶり
人間のすべての営みを、虚しく感じさせるものはありません。
原発は非人間的で化学物質による汚染以上に環境に反し、
そのうえ、広大な土地を汚染させてしまいます。
1986 年のチェルノブイリ原発事故は衝撃的でした。
事故の後、当時この絵本のなかで象徴として描いた「黒い物体」が、
福島原発の建屋にそっくりだったことに、不思議な運命を感じます。
黒く巨大な建物は、「恐怖」の象徴です。
少女と子羊、花の咲く野原は、安全で豊かな
「しあわせな世界」をあらわしています。
目に見えず、においもせず、触れることもできない放射能は、
生物にとっての脅威です。そこには底知れないこわさがあります。
この世にはコントロールできるものと
コントロール不能のものがあります。
それを見極めるのは智恵や感性です。
この地球上の自然といのちあるものへの人間としての責任を
考えつづけなければなりません。
葉 祥明

■北鎌倉葉祥明美術館企画展 2012年1月21日(土) ~ 3月16日(金)
原発の事を静かに考える絵本・・・
「美しい朝に」展

葉祥明美術館
学芸員 長井