葉祥明美術館

学芸員のおすすめコラム【「リトルブッダ」】

企画展で開催中の絵本「リトルブッダ」原画展。この作品は1996年に出版された20年以上前の作品です。当時、この作品が描かれた背景を少し紹介します。
 
そもそものきっかけは1993年に公開されたイタリアのベルトルッチ監督の制作映画「リトルブッダ」を葉祥明が観た事でした。映画の中のお釈迦さまが、とても美しく、魅力的だった事に感銘を受けます。現代的にセンス良く表現されているその様を、イタリア人の監督が描いている。日本に住み身近に仏教を見知っている自分も、お釈迦さまの教えを、新しい感覚で分かりやすく、絵本化出来る筈…。そう思い、一枚の絵を描きました。大きな菩提樹の下で、小さなお釈迦さまが、一人瞑想している淡いパステル調の絵です。何処か清々しく、聖なる感じの絵を、自身も気に入りました。そして、その絵を出版社の方にお見せして「これはいい、やりましょう!」と絵本を作る事になったそうです。
 
ここから葉祥明が語った絵本を作っていくお話し…
『私の絵本「リトルブッダ」のタイトルの意味は、幼少のお釈迦さま、そして、私達と、全ての中にある、まだ表に現れていない「仏性」のこと。だから、小仏様・リトルブッダです。そこが、映画「リトルブッダ」との違いです。そこのところを意識しながら、数ヶ月の間、私は、仏教関係の本を沢山買い込み、お釈迦さまと、仏教のことをせっせと勉強し始めました。(中略)
さて、絵本「リトルブッダ」には、二つの道がありました。ひとつは、お釈迦さまの幼少から悟りを開くまでの伝統的な道。もうひとつは、そうではなく、まったくオリジナルな発想で、「ブッダの心」を表現する道です。私の気持ちは、揺れました。編集者の時々のご機嫌伺いの電話と話し合いが続く、ある日。お釈迦さまが生きた頃、二千五百年前のインドの風俗や衣服・城・文化、に関する資料や、インドの風景写真集を見ていた時、ふと、自分は何をしているんだろう?インドのことを研究しているけれど、本当は、ブッダの心を絵本にするのではなかったのか、と思ったのです。この絵本を通して、私は何を伝えたかったのか、伝えるべきなのか、私が描くべきは、古代インドの風物・歴史ではなく、ブッダの心を現代の子供達に分かるように、表現するのだった!出版社のそもそもの意図もそこにあったのです。私は、遂に、迷いを抜け出しました。記念すべき、最初の一枚の絵を、デスクの前に飾り、心を澄ませ、そして、次々と浮かんでくる。言葉をノートに書き写し始めました。それが、今度の絵本の台本・テキストになったのです。今、私自身が思っていること、仏教・仏陀のエッセンスである「慈悲」のこと、自然観・宇宙観・悟りのイメージ……それらを、少年らしい言葉で表現していきます。不思議なことに、少年の口を借りて語ると、難解な理念も真理も、大変シンプルで、分かり易くなりました。今や私は、一人の少年、あるいは、仏陀の弟子として、お釈迦さまと、直接対話しているような気持ちです。物語の舞台も、特定の場所ではなく、時代も定かではありません。そんな世界で、少年は考えます。「自分って何だろう?」「人は何のために生きているんだろう?」「人生って何だ?生命って何だ?」世界と自分、人と動物の関係。様々なことを。(後略)』
 
このように出来た絵本が葉祥明の「リトルブッダ」です。
改めて読み返すと、普遍的なテーマとそれに添う優しい水彩画の作品は古さを感じず、センス良く優しく分かりやすく大切な事を伝えています。映画を観て感じた「お釈迦さまの教えを、新しい感覚で分かりやすく、絵本化出来る筈…。」という葉祥明の思いは見事に実現されたといえます。
 
 
北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2019年1月19日〜3月15日
【葉祥明ハートフル・メッセージ絵本原画展「リトルブッダ」】