葉祥明美術館

学芸員のおすすめコラム【そらのむこうに】

 
 葉祥明作品の中に、環境問題や社会問題を背景にしたものがありますが、その傾向はデビュー当時からみることができます。デビュー作の『ぼくのべんちにしろいとり』も犬のジェイクが仲間とはぐれてしまった白い小鳥を助けるお話ですが、小鳥が仲間とはぐれて一羽で飛ぶシーンは灰色がかった街の中です。実は排気ガスによる環境汚染をにじませています。それからしばらくはメルヘン風景画家として広く活躍し画集等を発表していきますが、改めて葉祥明が社会問題をテーマの絵本を多く描く転機となった出来事が、1986年のチェルノブイリ原発事故でした。人が作りだしたもので、大地が汚染され人間だけでなく、動物や植物の生体にも影響を及ぼす出来事が、地球に生息する一人の人間として自身がどう生きていくかを考えたといいます。その後、より明確に環境問題や社会問題を題材にした絵本を発表していきます。その中で1994年に出版された『そらのむこうに』は環境ファンタジー絵本として刊行されました。前半は、“雲の子”と空を飛んで遊ぶ ほのぼのとした雰囲気ではじまります。空高く飛んだ先に、今度は“空の子”と出会い「地球」の姿を教えられます。文中には「オゾン層」という言葉は出てきません。しかし地球が「やさしさが たりなくて ねつがある」と表現されています。私たちの地球に対する考えが足りず、フロンなどの科学物質を排出した結果、オゾンオールが出現しました。結果、紫外線量の増加や、温暖化といった問題が起きている事を、絵本の世界で伝えています。この後1996年には代表作『地雷ではなく花をください』 やオリジナルキャラクター・ジェイクが主人公の環境三部作『空気はだれのもの』『森が海をつくる』『ジェイクと海のなかまたち』を描き、絵本を通して問題提起をしてきました。その手法は、強く主張するものではなく、優しく、しかし大切な事をきちんと伝えて自分たちでその問題を考えるきっかけを与えてくれます。
 
葉祥明は「可愛らしい優しい絵を描くメルヘン画家」と表されることが多い作家です。確かに、彼の作品が広く知られるきっかけとして「メルヘン」の世界は、画業の重要な位置を占めていると言えます。しかし、その作品の多くが可愛いだけではない“哲学”を有しています。環境問題など社会問題を扱うのもその一つです。その時々の自治問題も取り上げており、時代をうつす作家ともいえるでしょう。
 
「可愛い」の奥にある世界を、ご覧下さい。

 
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絵本『そらのむこうに』発表当時、詩を寄せています。
 
【生命のドーム】
何億年という
大いなる時を経て
創りだされたオゾン層
それは地球上の
全ての生き物を守る
生命のドーム!
 
オゾン層が失われる時
この世界の豊かなる自然も
私たちの夢も消え去るだろう
そうならないために
私たちに残された最後の希望は
まだ汚されていないこどもたちの
無垢な祈りの心だけなのだ
 
葉祥明