葉祥明美術館

学芸員のおすすめコラム


挿絵作家としての葉祥明
 
1973年に創作絵本『ぼくのべんちにしろいとり』(至光社)でデビューした葉祥明。その後『おばあちゃんだいすき』と絵もお話も葉祥明が描いた作品を続けて発表しています。その一方で、月刊誌『いちごえほん』(サンリオ出版)では、挿絵を描いており、1975年9月号では「空色テスト」という短編物語にも4枚の挿絵を描いています。現在の作風とは異なる色合いと画風は、小学2年生の書いた瑞々しいお話の情感を可愛らしくも落ち着いた雰囲気で描いています。
 
その後も『詩とメルヘン』など雑誌に挿絵を寄せる仕事を主としながら、1978年『星の王子様がもどってきた』など雑誌に短編の創作ストーリーも掲載しています。この『星の王子様がもどってきた』は有名なサンテグジュペリの『星の王子さま』へのオマージュ作品です。同じ頃、絵本『かみさまへのてがみ』シリーズでは、原作の子どもの絵に寄せた作風で、黒のペン画で描きました。原作がある作品には、なるべく原作のイメージを壊さないように心がけて、葉祥明の要素は”少し”と葉祥明本人は話しますが、出来上がった作品は新しい葉祥明と、葉祥明作品らしい優しさと柔らかさが常に感じられます。ギーナ・ルック・ボーケの『小さな飼育係さんとしまうま』は雑誌に掲載された際には3枚の絵でしたが、後に短編作品を集めた絵本『小さなえんとつそうじ屋さんと作曲家』では2枚の絵が描き加えられた、お話の世界観を大切にした可愛らしい作品で、物語を可視化することに注力しています。
 
1980年に入ると、葉祥明の描く優しい世界が広く知られ、その人気をまとめた画集が多数出版されました。『風の旅人』『少年』『地平線』(いずれもサンリオ出版)、1980年に立て続けに出版された画集は人気を博し、人気作家として不動の地位を築きます。人気を博した1980年代は、葉祥明著作は作品をまとめた詩画集が多く作られ、描き下ろしの装丁や挿絵の仕事を数多手掛けます。安房直子氏のお話には『あめのひのトランペット』『はるかぜのたいこ』『すずをならすのはだれ』と優しい水彩画の牧歌的な挿絵を描いています。銀の鈴社発刊の「ジュニアポエム双書」シリーズでは、表紙絵とカット絵を15冊ほど手掛けています。出版社の編集担当者が葉祥明を選出する以外にも、詩や物語を書いた作家本人から葉祥明を指名くださることもありました。
近年では『あらしのよるに』のきむらゆういち氏と一緒に絵本『花のすきなおおかみ』(2020年、新日本出版社)を制作しました。躍動感あふれるお話に添えた葉祥明の絵もまた、いつもより動きのある作品に仕上がりました。
 
 現在企画展で開催されている「沈黙の響き〜南智子の世界〜」の作品も作家・南智子さんの著作三作に葉祥明が絵を添えています。南氏の紡ぐ言葉を葉祥明がその印象を具現化した作品は、調和し静かな中に響く何かが観る者を包みます。元々葉祥明の作風は、画面から強い主張をするものではなく、鑑賞者を優しく包み込む様な作風ですが、描かれる絵はどれも、言葉をより静逸で優しい空間へと誘います。
 
葉祥明の描いた挿絵作品。創作絵本とは異なる魅力をご覧下さい。
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2025年2月15日〜4月18日
沈黙の響き〜南智子の世界〜