葉祥明美術館

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 開催中の企画展は、昨年(2023年)に刊行された絵本『とべ!ジェイムズ』の原画展です。本作の原画展示は、昨年夏の出版されたばかりの時に、掛川市二の丸美術館で初めて紹介されました。その後、姉妹館の阿蘇高原美術館での展示を経て、このたび北鎌倉 葉祥明美術館では全点はじめて展示されています。
  
 本作は、ジェイムズという名のペンギンが主人公のお話です。一作目となる絵本は『オレンジ色のペンギン』2003年の作品です。南極に住むコウテイペンギンをモデルに描かれたお話は、一羽の子供ペンギンが主人公。灰色の産毛にくるまれた子供ペンギンとは違い、身体が綺麗なオレンジ色をした子供ペンギンは、ジェイムズといいます。他の子とはちょっぴり違う姿のジェイムズを「ペンギンはペンギン」と慈しむ両親に大切に育てられ、その個性を発揮していくお話でした。
  
 そして、二十年を経て再びジェイムズの絵本が刊行された『とべ!ジェイムズ』です。本作でも、オレンジ色をしたジェイムズが元気に描かれています。好奇心旺盛なジェイムズは、自分の知らない“空”や“海”に興味津々です。空を悠々と飛ぶカモメを眺め、空を飛びたいと考えます。あるとき両親に「海」がどんなところか話してもらいます。「海の中では、まるで鳥のようにすごいスピードで泳ぐ」と聞いたジェイムズは、空を飛ぶカモメのように、海の中を飛ぶように泳ぐ夢をみて、自分の希望に胸を膨らませるお話です。
  
 一作目ではジェイムズの周りとジェイムズ自身も、周囲との違いを区別することなく当然のように受け入れています。二作目では「飛べない鳥・ペンギン」の夢を否定することなく、その個性から出来る事を見いだしています。絵本の中で違う事・出来ない事を否定的に描くのではなく、個性の意味を見出し、捉え方を変える事で広がる可能性を示唆しています。この圧倒的な肯定感は、読み手を安心させ温かな気持ちにしてくれます。読み終えた後、ジェイムズを応援し、励ましたくなる気持ちも頷けます。
 葉祥明の描く絵本には、心を豊にしてくれるメッセージが込められています。【絵本を通して心の平和を】葉祥明の掲げるモットーの一つです。氷の世界に住むオレンジ色のペンギンのお話にふれ、ほっこりと和んでください。
  
 
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2024年8月10日〜10月11日
葉祥明絵本原画展「とべ!ジェイムズ」