葉祥明美術館

オススメ Vol.13「2005年新刊展」

葉祥明は1946年、熊本県に生まれました。幼い頃より豊かな自然に親しみ、雄大な阿蘇の山並みを見つめながら日々を過ごしたといいます。作家自身が「阿蘇は葉祥明の世界の原風景である」と語るように、その作品に描かれる静謐な風景の奥には、故郷への深いまなざしと尽きることのない想いが息づいています。

2005年に刊行された作品の中には、葉祥明が故郷・阿蘇に寄せる想いを色濃く反映したものがいくつか見られます。その一冊が、写真と葉祥明の詩によって構成された『グレートマザーランド』です。本書は作家自身の水彩画によるものではありませんが、そこに収められた風景は、本文中に具体的な地名の説明がなくとも、まぎれもなく阿蘇の大地を思わせます。写真に写し取られた雄大な自然と、葉祥明の言葉が響き合うことで、阿蘇という土地が持つ包容力や生命感が静かに立ち上がってきます。

また、『僕と風との対話』は、創作への思いや作品にまつわるエピソードを綴った自伝的エッセイです。その中でも、幼少期を過ごした故郷について多くの言葉が費やされています。これまで雑誌記事などで創作の背景が語られることはありましたが、葉祥明の歩みと内面の軌跡がこれほどまとまったかたちで示されたものは、きわめて貴重であるといえるでしょう。

そして今回、特にご紹介したいのが『ASO~阿蘇、ぼくの心のふるさと~』です。見開き20ページほどの絵本でありながら、そこには阿蘇の風景が実に多彩な表情をもって描き出されています。春夏秋冬、朝昼晩、刻一刻と移ろう光や空気、山並みと大地の気配が、葉祥明ならではの澄明な色彩と余白の中に、あふれんばかりに表現されています。
そこに添えられた言葉には、故郷・阿蘇に対する作家の変わらぬ敬愛がにじんでいます。阿蘇を知る方には、かつて目にした風景の記憶を呼び覚まし、阿蘇をまだ知らない方には、このような光景が本当に存在するのだろうかという憧れを抱かせることでしょう。ページをめくるごとに、見る者はそれぞれの記憶や想像を重ねながら、葉祥明の心のふるさとへと静かに導かれていきます。

葉祥明の創作の源に流れる、阿蘇という大地の記憶。その原点に触れるように、どうぞ本書の世界をゆっくりとのぞいてみてはいかがでしょうか。

■北鎌倉葉祥明美術館企画展 2006年1月21日 (土) ~ 3月17日 (金)
「New Book 2005年新刊展」



葉祥明美術館
学芸員 長井