葉祥明美術館

オススメ Vol.27「ホタルのくる町」

絵本「ホタルのくる町」は2001年に葉祥明氏が滋賀県の新旭町に訪れたのがきっかけで、描いた作品です。現在は市町村合併により高島市となりましたが「新旭町」の名前は残ってるそうです。

作家が見た風景は、心の温まる場所だったのでしょう。そしてそこで見たホタルの舞う姿に感動し、「ホタルのくる町」は生まれました。都心にいるとなかなか観る事が出来ない蛍。
以前は、いたるところで観る事ができたのでしょうか…。
綺麗な水を必要とする蛍は、環境破壊によりその住む場所を失いつつありました。しかし近年では環境問題が注目され、自然回復の動きがみられ、蛍の生息地が取り戻されつつあるようです。

日本では古来より蛍を好んで鑑賞してきました。「伊勢物語」「古今集」や「源氏物語」でも蛍が登場します。夜に儚く光るその姿は幻想的で美しく、時にもの悲しげにも想いますが葉祥明氏が描いた蛍は希望に満ちています。お話しの中にもありますが農薬や化学肥料を使わなくなり、小さな生きものが帰ってきた「自然の蘇り」のひとつの現れが蛍です。
人が壊してしまった自然を、取り戻すにもやはり「自然に」というのが大切なことですね。その姿に魅了され、むやみに放流する事で生態系に影響があると懸念もあるようです。『自然ありき』のかたちを忘れずにいたいと、「ホタルのくる町」を読み直し再認識しました。
世界では約二千種の蛍が生息してるとされています。日本では四十種あまり。私たちになじみの深いゲンジボタル以外にも沢山の蛍がいます。それぞれの蛍が光り、舞う姿が身近に観れる環境になるといいですね。北鎌倉の葉祥明美術館周辺でも、数匹が舞う姿が目撃されています。

本物の蛍がなかなか観られずとも、葉祥明の「ホタルのくる町」をご覧ください。その美しい景色、豊かな緑…豊かな水…そこに育まれる生命、感じて頂けると思います。

■北鎌倉葉祥明美術館企画展 2008年5月24日 (土) ~ 7月25日 (金)
絵本「ホタルのくる町」展



葉祥明美術館
学芸員 長井