北鎌倉 葉祥明美術館が開館して20年、記念年の2011年の今年は、葉祥明の代表作を改めて皆様に ご覧頂こうと、人気作品の企画展示を開催しています。
その中で、オリジナルキャラクターで犬の「ジェイク」が主人公の絵本「ジェイクと海のなかまたち」 はジェイクシリーズの中でも人気の高い作品です。海の中をジェイクが探検し、様々な海の生き物と 出合うお話ですが…その内容は、海の生物からの「海を大切にして!」という人間へのメッセージです。
第一版が出版されたのは1998年。この一年前にはナホトカ号沈没による重油流出事故がありました。 絵本の中でジェイクが出合ったアシカさんがジェイクに言います「人間たちに言ってよ。海に危険なもの を捨てたり、流したり、タンカー事故をおこして、海を汚したりしないでって。…」
当時では「最大の海洋汚染」とまで言われた事故ですが、その後も様々な形で人間により海洋汚染がさ れています。
2010年にはルイジアナ州沖の石油堀削施設で爆発が起き、またも重油が流出しました。
海に漂流する油だけでなく、海面に沈んでいく有害物質もあり、それらが海の生物に取り込まれ 食物連鎖により被害が拡大していくとも言われています。
同じ事が今、福島第一原発事故による放射能の海洋汚染でも言われています。
そしてまた「人類史上最悪の海洋汚染」と言われています。
放射能による海洋汚染の懸念は過去にもあり、イギリスのセラフィールド再処理工場での事、 核実験によるもの・・・「最悪」という言葉が繰り返し使われています。
絵本の中でイルカさんは言います「…どんなにたくさんの生きものが海に住んでいるか、人間たちに 教えてあげて。人間たちがいろんなものを海に捨てたり、流したりすると海のなかまが生きていけな くなるって。これは、とても大切なことなんだ。」と。
2007年に同じく絵本「ジェイクと海のなかまたち」の展示をした際に、このオススメの中でウミガメ の話を取り上げました。人間が捨てたゴミによってウミガメの生態が脅かされているという内容で、 身近なことから始める大切さをお伝えしました。今は、出版から13年、前回の展示から4年が経ちます。
当時のメッセージ(警鐘)が今にも通じるという現状に憤りを覚えつつ、絵本の最後に海の生き物たち がジェイクと読者に伝えるメッセージを紹介します。
「…地球、青く輝く水の惑星!
この星、そしてこの星の海は、すべてのいきもののふるさと。
決して人間たちだけのもじゃないんだ。
これから大人になっていく、人間の子どもたちなら、このこと忘れずにいてくれて、必ず、この星の、海、空、大地を美しくよみがえらせてくれる。ぼくたち、みんな、そう信じているんだ!
ジェイク、人間の子どもたちによろしく伝えてね。」
葉祥明はチェルノブイリ原発事故に衝撃を受け、そこから環境問題などの多くの絵本を手がけるように なるなど影響を受けています。
絵本を通して、子供たちだけでなく、大人たちにも「大切」なことを 考えるきっかけとなれば幸いです。
いまも大変な生活を余儀なくされている被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げす。
今はただただ被災者の皆様方の傷が一日も早く癒えることと、一日も早く普段の生活に戻れますよう、 被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
■北鎌倉葉祥明美術館企画展 2011年7月23日(土) ~ 9月23日(金)
「ジェイクと海のなかまたち」展
葉祥明美術館
学芸員 長井