葉祥明美術館

オススメ Vol.55「海からの風」

葉祥明の著作には、メッセージが込められています。
環境問題・社会問題・自己探求・愛…etc. その時々、自身の感じたこと、発信しなくてはと思うことを著作にのせ、伝えてきました。

この度、企画展示中の「海からの風」も深いメッセージが込められた一冊です。
葉祥明の初期作品を観ても、大海原や浜辺、灯台など海を題材にした作品が多くあります。本人も「海を描くのが好き」と海の青を紙にのせるときの、楽しみを語ります。
海を題材の作品は、作家のアトリエにしまわれた絵がいくつもあり、誰かに依頼されて描くのではなく、自らの思いから描かれたそれらの作品は、いつか何かのかたちで発表できればと…大切に保管されたものです。
「海からの風」は2011年に出版されましたが、掲載作品の中の何点かは、この保管されていた作品が使用されました。この本への思いの強さが伺えます。満を持して持ち出された作品を散りばめながら、いくつかの書き下ろし作品を加え素晴らしい本が出来上がりました。
そして、絵と共にメッセージを込めた言葉も胸を打ちます。
『広々とした空と海が 小さくなっていた 君の心を優しく広げてくれる』(本文より)ひとつひとつ読み進んでいくと、”生きる力”が湧いてきます。”人生の恵み”を葉祥明の作品を通じて、
”海”から受けとる事が出来る本書です。


2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震がおき、大津波が多くを奪いました。同年の夏、”海”をテーマにしたこの本を出版して良いのか…と悩んだといいます。
「しかし、今だからこそ出さなくてはいけない」「伝えたい事がある」そんな思いを胸に制作をします。
古来より私たちの生活に恵みを与えてくれた”海”。辛いこと悲しいこと、人生で得たもの失ったもの……あの時の、そして今の思いを、海はただ黙って聞き取ってくれます。

葉祥明が”海”をテーマに描いた「海からの風」。
メッセージを受け取って下さい。

(葉祥明は海と震災を題材にした絵本「あのひのこと」を描いています。美術館には他にもたくさんの著作が閲覧できます。是非、ご覧下さい。)

■北鎌倉葉祥明美術館企画展 2013年3月16日(土) ~ 5月17日(金)
「海からの風」原画展

葉祥明美術館
学芸員 長井