絵本作家・葉祥明は代表作「地雷ではなく花をください」をはじめ、様々な社会問題・環境問題をテーマに絵本を描いています。その中でも、オリジナルキャラクター・犬のジェイクが案内役で描かれた「ジェイクと海のなかまたち」「森が海をつくる」「空気さんありがとう!」の環境三部作が広く読まれているシリーズです。
今回、北鎌倉 葉祥明美術館で開催されている「空気さんありがとう!」は、1997年の出版当初「空気はだれのもの?」というタイトルで出版されていました。2008年に「空気さんありがとう!」とタイトルのみを変え再版され現在に至ります。元々、環境問題に深い関心を持っている葉祥明が、大気汚染を危惧し、絵本を制作するに至った要因がいくつもあります。化学スモッグ、酸性雨、オゾン層破壊など地球の温暖化問題が社会問題としても関心を集めつつある中、1997年には京都議定書が採択されました。そんな時代背景の中、同年(1997)に環境三部作の制作がなされました。シンプルに、ただシンプルに空気の大切さが描かれています。『私たちは空気なしではいきてゆけません。』『私たちはしばしば大切なものを見失いがちです。それが、広く、大きく、重要であればあるほど、かえってそのことに気づきません』『ぼくたちを生かしてくれている空気さんたち、ありがとう。』(本文より)
1997年に書かれた文章が今にも通じる現状は、私たち自身のライフスタイルを考える必要を感じます。葉祥明の言葉通り「もとをただせば、多くが私たちが行き過ぎた便利さ、安楽さを追求してきたのが原因です」。使われる多くの電力などのエネルギーを生み出すための方法を考えるのではなく、自分に必要最低限のエネルギーを考え、知的で精神性を重んじたライフスタイルを自分でクリエイトしていきたい、葉祥明の想いが込められた作品です。
難しく感じがちな環境問題を、葉祥明の穏やかな水彩画が優しく導いてくれます。この機会に、ご覧下さい。
■北鎌倉葉祥明美術館企画展 2014年9月20日(土) ~ 11月21日(金)
「空気さんありがとう」絵本原画展
葉祥明美術館
学芸員 長井