葉祥明美術館

オススメVol.89「Mountains —山からの風—」

葉祥明は1946年に熊本市に生まれ、7人兄弟の6番目の大家族。実家は中華レストランを営んでいた関係もあり、たくさんの人に囲まれて育ちました。そんな中でも、幼少の頃から空を見上げては、広大な青の世界に惹かれ、静かに思いを巡らせていました。また、家族に連れられ遊びに行った阿蘇の自然に親しみ、草千里を望む広々とした風景に魅了され幼少期を過ごします。
その自然への賛美と、家族への愛が葉祥明作品の根幹をなしていると言えるでしょう。
 
葉祥明と言えば草原や高原・大海原に家や馬、ヨットがぽつんっと描かれるシンプルで優しい作風が特長です。自然と美しいものを好む葉祥明の趣向が、余分なものをそぎ落とされた形で表現されています。本展で集められた<山>を描いた作品も、多くを描かず山のもつ荘厳さ、包み込む優しさを表現しています。
 
中でも、初期に描かれた「ひとり立つ山」は群を抜いてシンプルです。この作品は1980年代の数年にわたって描いた、山と渓谷社刊のガイドブック『トラベルJOY』の表紙の絵を描いた際の一枚です。葉祥明は故郷・熊本を離れてからいろいろな地方に旅したといいます。しかし、その旅先でスケッチをすることはほとんどありません。ガイドブックの表紙絵を描いた当時も、その旅の記憶を少しづつ引き出して描きました。
 「ひとり立つ山」は、きちんと描いた初めての富士山。遠くに見える美しい形をシンプルに描き、手前に描かれた二頭の馬と、空に浮かぶ黄色い太陽が、ほのぼのとした暖かみのある空間を生み出しています。手のひらサイズの小さな作品は、記憶の中で、かつて子供の頃に見た熊本・阿蘇の外輪山や、草千里を歩く馬に想いを馳せ、大人になった作家が世界へと歩み出した旅の始まりを感じます。
その後、浅間山・離山、世界の山、どこかにある里山や象徴的な山など世界を広げて行きます。
 
葉祥明に『山とは?』と問うと、ドイツの詩人であり作家のカール・ブッセの「山の彼方」の詩を思い浮かべると。皆さんは葉祥明描く山を見て、何を思い浮かべますか?
 
 
北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2018年11月17日〜2019年1月18日
【葉祥明が描く大自然「Mountains —山からの風—」】