葉祥明美術館

おすすめVol.98【あのひのこと】

 
 2011年3月11日、東日本大震災が発生してから、9年が経ちました。
地震後の津波や火災に加え、福島第一原子力発電所の事故へと繋がり、大きな大きな被害となりました。当時、葉祥明美術館のある北鎌倉も下から突き上げるような揺れを感じましたが、遠く離れた東北の地があのような事になるとは、思いも寄らぬ事でした。ですが歴史をひもとけば日本は地震大国、古来より大地震が定期的に発生しています。日本書記にも地震の記述があり、鎌倉時代、室町時代、安土桃山時代、江戸時代、近代、現在に至ります。記憶に新しい中でも、1995年の阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災、2016年熊本地震、2018年の北海道胆振東武地震などが上げられます。
 
 開催中原画展の作品『あのひのこと』は東日本大震災の後、葉祥明がその様子を絵本にしました。被災地に心を寄せ「共に祈り、共に乗り越えよう」と描いた作品です。
 これまでも葉祥明はメルヘン画家として活躍しながら、社会問題を扱った絵本も数多く発表しています。そのきっかけとなった出来事が1986年におきたチェルノブイリ原発事故でした。これ以前は、絵本作家として「綺麗な、かわいい」絵を描くことが良いと思っていました。しかし、地球規模・惑星規模で起きたこの事故を受け、世界と自分との関係を模索します。そして絵本の中で様々な問題を考えるきっかけをつくり、問題提起をしていきます。
絵本『あのひのこと』では「どう生きるか」を投げかけています。同時に、この絵本を手にすることで、風化させてはいけない事を身近に感じて欲しいと願います。
時が経つに連れ、日常の中で被災地の事を忘れがちになります。本展で再び心を寄せるきっかけとなれば幸いです。
 
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『あのひのこと』を震災の翌年2012年に出版する前に、2011年に『美しい朝に』という絵本を出版しています。この絵本はチェルノブイリ原発事故に衝撃をうけ、事故直後に制作されましたが当時、出版されませんでした。2011年に福島第一原発事故を受け、改めて出版の運びとなります。この絵本のあとがきで葉は言います
『この世にはコントロールできるものと、コントロール不能のものがあります。それを見極めるのは智恵や感性です。この地球上の自然といのちあるものへの人間としての責任を考えつづけなければなりません。葉 祥明』
原発事故における放射能の怖さにふれた事ではありますが、地震や自然災害にも言えることでしょう。コントロール出来ない事を前に「どう生きるか」を考えてゆければと思います。