葉祥明美術館

おすすめVol.105【Heart is……】

  
葉祥明という名前を聞くと、“絵本作家”や“メルヘン作家”と思い浮かべる人も多いでしょう。実際、1973年に絵本『ぼくのべんちにしろいとり』でデビューし、二作目の絵本『おばあちゃんだいすき』 も出版されます。この二作が当時のサンリオ出版で発行していた月刊詩『詩とメルヘン』の編集者の目にとまり、葉祥明の作品も本誌でたびたび掲載されます。当時、アンパンマンの作者としても有名なやなせたかし氏が『詩とメルヘン』の編集長を務めており、「詩」と「イラスト」を紹介する本誌は大変な人気となりました。その中でも葉祥明の描く優しい色合いの風景は多くの読者に好まれ、特集が組まれる程の人気振りでした。その作風と『詩とメルヘン』の表題もあり、葉祥明=(イコール)メルヘン作家のイメージが定着します。
 
 しかし葉祥明は元々、ルソー「エミール」などの哲学を読み、マザーテレサの活動を調べ、レイチェルカーソンの「沈黙の春」に触れ環境問題や社会問題などに常に興味をもっている人でした。その中で綺麗な風景を求められ、「幸せになれる絵」「喜んでもらえる絵」を描き続けます。しかし1986年のチェルノブイリ原発事故をきっかけに、自身の創作活動を見つめ直し、絵本や作品の中にメッセージを込めるようになりました。『ぼくのあおいほし』や『そらのむこうに』『地雷ではなく花をください』など様々な問題を提起し、“知ること”の大切さから、作家らしい優しい切り口で伝え続けています。押しつける事無く、穏やかに「どうですか?」と語りかける様に…。寄り添う形で問題を一緒に考える姿勢は、好まれるメルヘン作家・葉祥明の作風に更なる深みをもたらしたと言えますし、また本来の葉祥明の思想に近づいたとも思います。
 
実はデビュー作の『ぼくのべんちにしろいとり』は光化学スモッグ等の環境問題、『おばあちゃんだいすき』は強制収容所への献花が描きはじめの発想でした。表面には見えていなくても、根底にある思いは変わっていないのかもしれません。
 
 優しい絵と、メッセージを込めたストーリー展開は今尚、進化し描き続けています。しかし葉祥明の“思い”は留まるところをしりません。もっとストレートに心に響く手段として「言葉」を綴ります。日々クロッキー帳に浮かんだ言葉を書き留め、今では数百冊に及びます。その言葉は絵本で展開するふんわりとした表現と趣が異なり、短く簡潔に綴られます。直接的に訴え、心の琴線に触れる言葉の数々は、悩みや疲れを癒しつつ励ましてくれるものから、日常の当たり前の事が幸せであることを再認識させてくれるものばかりです。
 
 企画展で開催の『Heart is……』は、北鎌倉 葉祥明美術館開館30周年にあたり優しい風景画・メルヘン画と共に、綴られた言葉を集めた詩画集の展示です。葉祥明の世界を是非ご覧下さい。
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2021年5月29日〜7月30日
企画展【『Heart is…… 心にひびく癒しの調べ』原画展】