葉祥明美術館

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絵本『エレナとダフニ』(自由国民社刊)は2000年7月に発刊されました。葉祥明は絵本『地雷ではなく花をください』をはじめ、社会問題をテーマにした絵本を描き、その収益が絵本で取り上げられた活動に寄付されるという作品を手掛けてきました。
『エレナとダフニ』も本一冊の収益が孤児となったアフリカゾウの赤ちゃん1回分のミルク代として寄付されました。
絵本の文章を執筆された故・佐草一優氏が設立したNPO法人ジャパンワイルドセンター(通称:JWC)では現在でも野生動物保護活動が行われています。在庫がなく書店等での取扱が殆どない絵本『エレナとダフニ』もこの度、JWC様のご協力により、美術館でも皆さまにお届け出来る事になりました。
 
絵本『エレナとダフニ』は広大な大地に悠々と暮らしていたアフリカゾウが、密猟者によって命を奪われ、親を失い行き場を失った子象エレナを保護し面倒をみる女性ダフニさんの実話を元に描かれています。
 ケニアの国立公園で野生動物のための孤児院を開設したダフニ・シェルドリックさんは2018年に、著者の佐草一優さんは2013年にこの世から旅立たれていますが、その意思は今も受け継がれています。
 ワシントン条約により1975年にはアジアゾウ、1990年からはアフリカゾウも象牙の国際的取引が原則禁止されています。しかし、今でも違法取引による象牙の押収は後を絶たず、それだけ命が犠牲になっているといえます。絵本の中では、人間により親や仲間を殺されてしまったエレナが、敵であるはずの人間であるダフニと心を通わせ、やがて協力し合う姿が描かれます。人間と象、同じ命ある生き物同士が尊重し、思いやりを持って関係を築いたこの実話は、密猟や紛争、そして日常においても他者に心を寄せる気持ちを大切にしたい昨今に、心に響くメッセージとなりました。

 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2025年7月12日〜9月12日
絵本『エレナとダフニ』展