葉祥明美術館

おすすめVol.113【おばあちゃんだいすき】


 
  絵本『おばあちゃん だいすき』は葉祥明の絵本2作目の作品です。1973年に『ぼくの べんちに しろいとり』で絵本作家としてデビューした後、1975年に刊行されました。この二冊の絵本をきっかけに、当時 話題の月刊誌『詩とメルヘン』『いちごえほん』の編集者の目にとまり、その後一大ブームを巻き起こす「メルヘン作家・葉祥明」の誕生となります。
 葉祥明は当初 イラストレーターになりたいと思い、大学4年生の時にその道を模索します。しかし難しく、大学卒業後にニューヨークへの留学などを経て人生を模索している中で、葉祥明の心を動かす絵本と出会います。谷内こうたさんの『なつの あさ』。その落ち着いた色合いと、牧歌的な世界観に魅了され、自分も絵本を描いてみようと思ったと言います。そうして描いた作品を、出版社に持って行くわけですが「すぐに絵本!」と言うわけにはいきません。最初に考えたお話は、アウシュビッツや広島などの紛争跡地に花馬車に乗って、花を一本づつ手向けていくお話でした。構想と1枚の絵を携え出版社を訪れましたが「内容が子供むきではない」と絵本にはならなかったそうです。その後“犬が小鳥を助ける”というほのぼのとした絵本『ぼくの べんちに しろいとり』が出版されましたが、初めに考えていたお話はどうなったか…。花馬車と、お花を届けるエピソードと最初に描いた一枚の絵が残り『おばあちゃん だいすき』になりました。
 
 実は当初描いていた絵と、その後 描き加えられた絵には違いがありました。主人公の男の子の服装…シャツ&ズボンとオーバーオールの二パターンがあります。最初はシャツと&ズボン、その後 絵本にするにあたり牧歌的な雰囲気を出したくてオーバーオールに変更したそうです。
最初に描いて出版社に提案した1枚の絵は絵本中盤に登場する見開きに描かれた花馬車に乗る男の子と花畑の絵。当初はシャツとズボンでしたが、オーバーオールを描き加えました。ところが、です。その後描いたシーンに、なぜかシャツ&ズボンの少年が…。本人曰く、後からオーバーオールに決めたけど、自分の中で最初のイメージのシャツ&ズボンが印象強かったのか…つい…「いいかげんだね」と、笑って話しておりました。結果、絵本の中の少年は、オーバーオールから突然シャツ&ズボンになり、またオーバーオールに戻ったり。なんとも葉祥明らしい、ほのぼのとしたエピソードです。「これか」と、その小さな違いを見つけながら観賞するのも楽しいかもしれませんね。
 
また、本展の導入部分には葉祥明が絵本作家としてデビューする前、イラストレターを目指していた作品も少し紹介しています。葉祥明の作風の変化もご覧下さい。
 

 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2022年10月1日〜12月2日
葉祥明画業50周年に向けてー絵本原画展『おばあちゃん だいすき』