葉祥明美術館

おすすめVol.115【ぼくのべんちにしろいとり】


 
 1973年に絵本「ぼくのべんちにしろいとり」を発表し、今年2023年で画業50年を迎えた作家・葉祥明氏、今年77歳になる今も新作に向かい制作活動を続けています。今日までに260冊以上のオリジナル絵本、挿絵を手掛けた出版物を合わせれば530冊を超えます。大小合わせ絵画作品は当館が把握している作品だけでも8670点、今も増え続けています。50年の間に葉祥明が生み出した多くの作品は、沢山の人に癒しや希望を伝えてきました。北鎌倉葉祥明美術館でも毎年5から6の展示を企画し、過去の作品から最新の作品まで様々な切り口で紹介しています。2023年の最初の企画展は、画業50年の記念に改めてデビュー作を紹介します。
 
 絵本『ぼくの べんちに しろいとり』は冒頭に紹介したとおり、1973年に月刊カトリック保育絵本『こどものせかい』3月号ではじめて掲載されました。『こどものせかい』は出版元である至光社が“感じる絵本”として刊行しており、いわさきちひろさんや、谷内こうたさんなど素晴らしい絵本作家の名作を子ども達に届けていました。同時に至光社は国際版絵本として世界各国に出版を行っており、葉祥明の『ぼくの べんちに しろいとり』も発表の同年にイギリスとスウェーデンで出版され、翌年1974年にはフランスでも出版されました。本作の主人公は「白い犬」ですが、「ジェイク」という名前でその後たくさんの絵本の主人公になり活躍していきますが、その「ジェイク」という名前はイギリス版が出版される際に翻訳家が、「Jake」と名付けたのがはじまりです。イギリス版の『ぼくの べんちに しろいとり』のタイトルは『Jake』です。白い犬のジェイクが初めて登場した本作は、メルヘン作家として活躍していく前で、少しグレイッシュな落ち着いた色味をしています。当時、スタイリッシュでお洒落な海外の絵本に魅了されており「子供向けの絵本だけど大人も楽しめるアートとして描いた」と落ち着いた雰囲気をもつ作品が誕生しました。
 
 現在の作風は天と地を分ける線も、描かれる家や木などのモチーフもシャープな線が目立ちます。しかし本作は線が柔らかく境界線が緩やかです。この後、描き方を模索しながら現在のスタイルに進化していくスタート地点を本作でみることができます。荒削りの中に素朴さと暖かみを感じますが、スタイルが進化しても「優しく・暖かく・癒される」葉祥明の魅力は当初から変わらないのでしょう。
 人気の高い本作は1981年に上製本として書店に並び、2006年には当初“ひらがな”だった「べんち」の表記をカタカナの「ベンチ」にし改訂版が出版されました。その際、絵本に巻かれている帯がジェイクになるなど、仕掛けが施されました。編集者からも愛されている作品だと感じますね。
 
画業50年の本年。デビュー作から始まり、メルヘン作家として注目された時代の作品から、社会問題を絵本にした作品、普遍的な深いメッセージを込めた作品や、身近な心に寄り添う作品。そして、葉祥明の奥深い世界にふれ、これからの葉祥明に通じる作品を6つの展示を通して紹介する予定です。
50年を振り返る北鎌倉 葉祥明美術館の展示をお楽しみ下さい。
 

 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2023年2月5日〜4月7日
葉祥明画業50年ー絵本デビュー作『ぼくの べんちに しろいとり』