葉祥明美術館

おすすめVol.116【社会問題に向き合う絵本たち】


 
 葉祥明が以前「平和」に向けたメッセージを書きました、ご紹介します。
『私は終戦の次の年の生まれです。平和憲法と民主主義を小学校で学んだ世代です。基本的人権・男女平等・教育を受ける権利・健康で豊かな生活と人生を送ることの大切さ、自由な社会…それがこれからの日本という国、と教えられました。
小学生の私はとても、感動しました。実際、戦後五十年以上この国は、国際紛争に直接的に巻き込まれずにやってきました。それは大変重要な、史上希れなる半世紀だったと言えるでしょう。しかし、世界には戦争・紛争が絶えません。圧政・軍事政権も、まだまだ地球上に存在しています。私たちは、この星から、戦争を失くす努力をし続けなくてはいけません。
戦火に苦しむ人々に手をさしのべる必要があります。民族主義や国家主義を克服して地球人として生きることを考えなくてはいけません。そして根本的に大切なのは、私たち一人一人の内なる平和です。
ピースフルマインド、すなわち「平安な心」の持ち主が、この世界に数多く現れることを私は願っています。
私の仕事がそのお役に立ちますように、あなたの心が平和でありますように…。 葉祥明」
 
 葉祥明の戦後間もない幼少期には戦争経験者の記事がたくさん紙面にあふれていたと言います。同じくらいに発展・発達のこれからの未来を見ていた時代でした。青年期には高度経済成長と環境汚染の深刻化、ベトナム戦争、学生運動と激動の時代です。そのような中でも葉祥明は常に穏やかに美しいものに心を寄せていました。混沌とした時代の中でバランスをとっていたといいます。しかし、1986年のチェルノービリ原発事故を機に一転します。メルヘン作家として「光」のみを描く姿勢だったのが、「陰」も描かなくてはと考えるようになります。それからは環境問題、戦争と平和、動物愛護、人権問題など様々な社会問題を絵本にしていきます。しかしメルヘン作家として多くの作品を世に輩出してきた作家が描く「陰」はあえてメルヘン仕立てにしており、それらは悲しい出来事であっても画面は美しくもあります。「美しいということは、とても重要。ひどく醜いことでも、美のフィルターを通せば”光”として見てことができる。そうすることで目を背けることなく、より多くの人に伝えられる」と葉自身も意識して描いています。本展でもまた、美しい中にある問題に、向き合う機会となる名作をご覧頂ければ幸いです。
 
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2023年4月8日〜6月9日
画業50年・葉祥明の「社会問題に向き合う絵本たち」