葉祥明美術館

おすすめVol.118


 
1996年に出版された絵本『イルカの星』は、葉祥明がいくつかの要素に感化され、制作されました。そのひとつが映画「グラン・ブルー」です。実在のフリーダイバーで海洋学者のジャック・マイヨール氏をモデルに製作されたこの映画を観た葉祥明は、広がる海中の世界とイルカ、そして海に潜る青年の姿に感銘を受けます。後に絵本の製作過程で書かれたメモには絵本の主人公の少年を「ジャック・マイヨールを思わせる少年」と書いています。
 絵本出版の数年後、日本に滞在していたマイヨール氏と都内の書店で偶然に会ったといいます。その際、葉は絵本『イルカの星』をプレゼントしています。感銘を受けた相手に奇跡のような偶然の出会いをした後、マイヨール氏の著書のために絵を描くなど交流がありました。
 
 この絵本では少年が水族館でイルカに出会い、そのイルカと意識の中で旅に出ます。その中で、この地球という惑星で今、何が起こっているのか、人間とは何か、これからの世界はどうなっていくのか、といったことを通して、人間のあるべき姿をイルカが教えてくれるように書いています。葉祥明の絵本は多くが犬や猫、ペンギンや熊など動物が伝えたい事を代弁しています。「人間以外の生き物からのメッセージというのは、素直に受け入れやすいもの」と考え、本作でもイルカやその他の海の生物が人間の少年に大切な事を伝えています。
 環境問題や平和への願い、それらの根底には「思いやること」の大切さがあります。絵本『イルカの星』の最終項で【あいしなさい、じぶんじしんと すべての生きものを……】という一文で締めくくられ、葉祥明の想いが込められています。
 
 本書に込められたメッセージについてふれましたが、その絵を観るだけでも心が洗われるように感じます。太陽の光が届く、透明感のある水色から…深い海へと続く濃い青の世界。いつの間にか青い地球を外から見る、宇宙の濃紺へと展開されます。葉祥明自身、一番好きな色は青と言います。葉祥明の描く青の世界は、何処か暖かみがあり、濃紺の世界でもどこかに光を感じます。描く際に、「ちょっと隠し味で黄色を入れる」と言います。それも技法として暖かみを感じる一因ではあるでしょう。ですがそれだけでは説明できない、画面から光を発しているよう印象さえ受けます。印刷物からは感じる事が出来ない、原画の魅力を美術館で是非ご覧ください。
 
10月6日まで北鎌倉 葉祥明美術館にて『イルカの星』の原画展を開催しています。全点展示ではなく、絵本掲載の内三点は9月18日まで掛川市二の丸美術館に展示しています。また前述の制作過程のメモも掛川市二の丸美術館で開催中の【葉祥明原画展 しあわせの小径へ】で紹介しています。ぜひ合わせてお運びください。
 
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2023年8月5日〜10月6日
葉祥明絵本原画展『イルカの星』