葉祥明美術館

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 葉祥明は数多の出版社から絵本など著作物を出版しています。それぞれに葉祥明を担当してくださる編集者がおり、葉祥明の作品を一緒に作り上げています。出版社や担当編集者の個性により、出来上がる作品の方向性も変わっていくこともあります。1990年代、葉祥明の真理を追求するような、深いメッセージをもつ作品を多数生み出した時期がありました。その頃の話しを作家に伺うと、当時の担当出版社の方が自分の心の深い部分にあるものを理解し共感してくれて、次々に絵本を出すことが出来たといいます。1996年『リトルブッダ』『イルカの星』、1997年『ひかりの世界』『宇宙からの声』、2000年『クジラの海』(佼成出版社刊)。どの作品も「愛」と「いのち」をテーマにした奥深い作品です。20年以上経っても読み継がれる名作ばかり。中でも『ひかりの世界』は愛と命を「死」というデリケートな事柄を主題にして描いています。暗く沈みがちなテーマを、ひかりに包まれた穏やかな世界で描くことで、描かれた「死」を通して、「今」を生きることの意味を考えさせます。
 
 最近、葉祥明が改めて「いのち」って何だろうと、と考えた時の話しを伺いました【葉談「いのちは身体を動かすエネルギー」という考えに至った。「いのち」がエネルギーでしかないなら、感じて考える物は何か…。それは「魂」であると思った。エネルギーと魂を別に考え、魂の大切さに想いをはせ、魂に語りかける作品を創りたいと思う。
 
 身体と魂が別れて、語りかけるお話こそ、今回ご紹介する絵本『ひかりの世界』です。葉に伝えると、「昔も今もおいかけているテーマなんだね」と。
「生と死」の普遍的な事を追い求めた作品。今描くと、もっとダークな世界になるかもと言います。27年前に描いた優しい光に包まれた世界を、大切にご覧頂ければと思います。 
 
 
また、葉祥明執筆の詩画集『再び会う日のために』も「死別」を主題にしています。2005年に発表した本書は前年に姉を亡くした葉祥明と、大切な人を亡くした編集者との想いが詰まった一冊となりました。あとがきに寄せた葉の言葉を紹介します。
 
 この世には色々な苦しみと悲しみがあります。その中でも最もいたましいのが、愛する者との死別です。幼いわが子との別れ、うら若い青年男女、働き盛りの夫や妻、父母、年老いた人との、突然の、あるいは、ゆっくりとした別れ。重い病気や怪我、事故、災害、重大な事件、あるいは自らこの世を去る、といった様々な状況の中で、遺された人々は喪失感と無力感にさいなまれがちです。そんな時、人は「何故?」と自らに、天に問いかけます。それは、そのことの原因を明かしたい、という願いであると同時に、哲学的な問いであり、なにか魂の深みにおける戸惑いでもあるのです。その究極の問いに対する答えは果たしてあるのでしょうか。
 しかし、生命がこの地球という星に宿り、無数の生命体が誕生し、ついには人類が出現したことが、壮大かつ偉大な出来事だというのなら、それがいかなる状況であれ、生命がその身体から抜け出ること、すなわち「死」と呼ばれる現象も、その生と等しく、また崇高な出来事と言わなくてはなりません。私たちは死を忌むべきものとして遠ざけたり考えまいとしてきました。しかし、これからは悲しみと苦しみの感情だけで受け止めず、その、より深い意味や意義を知ることを始めなくてはいけません。死にゆく人々は決して敗者でも弱者でもありません。あなたが愛した人は、あとに遺る人々が人生と生命のなんたるかと、そのかけがえのない大切さに気づくことを願っているに違いありません。(『再び会う日のために』あとがきより)

 
開催中の企画展では詩画集より抜粋した言葉も少し紹介しています。
 
本展が悲しみを乗り越える勇気と、生きる喜びの一助となれば幸いです。
 
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2024年2月10日〜4月5日
いのちのメッセージ『ひかりの世界』葉祥明絵本原画展
※『再び会う日のために』の販売は終了しております。