葉祥明美術館

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【企画展】葉祥明が描く水中の景色 
underwater scenery
 
 葉祥明が描く代表的な世界は、水平線や地平線といった画面を二分され、空や大地、海原が広々と広がる構図を特徴としています。また数こそ地上の風景よりは少ないですが、宇宙や海中といった景色も描いています。なかでも水中の様子は、絵本『イルカの星』(1996/佼成出版社) 『ジェイクと海のなかまたち』(1998/自由国民社)『クジラの海』(2000/佼成出版社)など、人気絵本の舞台となってきました。そこには空気や風を感じる地上の風景と同様に、水の流れや光が息づく「生きた空間」が広がっています。
 
北鎌倉 葉祥明美術館で開催中の「葉祥明が描く水中の景色」展は、こうした水中の情景に焦点を当てた展覧会です。海や川の水面近くから深海にいたるまで、制作時期や場面に合わせて描き分けられた豊かな表現をご覧いただけます。
 
 宮沢賢治の名作『やまなし』を描いた作品は1980年代のもの。その表現は筆致が流れる水の表現となり、濃淡の淡い色合いが水の中で揺らめく光を思わせます。葉祥明作品は美しいグラデーションによるなめらかな階調が魅力の一つですが、通常は薄く色を塗り重ねることで、支持体が絵具で覆われ概ねマットな質感に仕上げられます。しかし『やまなし』では、支持体が透過して見えるほど薄く水で溶いた絵の具で筆致がそのまま水流として表現しています。これは、本作の少し前に描かれた「Blue Stream」シリーズ(勢いのある筆跡を生かした水の表現を追求した40枚以上の連作。*本展での展示はありません)の技法が生かされたものです。
 その後、数多の作品を生み出すなかで、葉祥明は「空気そのものを描き込むことで空間を現出させる表現」を確立します。その画風は水中表現でも遺憾なく発揮されました。絵本『クジラの海』や『イルカの星』では深い海の中で悠々と泳ぐクジラやイルカが静謐に描かれています。『やまなし』のような大きなストロークはなく、微かな筆致による深い青が一面に広がり、まるで3Dのような浮遊感から画力の高さがうかがえます。一方、同時期に描かれた絵本『ジェイクと海のなかまたち』などでは、光溢れる明るい世界が広がります。より子供向けの絵本のために描かれた作品では、光の粒子そのものが描かれているような瑞々しさがあり、生き物たちを生き生きと輝かせています。
 流れる水、深海、光届く浅瀬…。葉祥明作品の真骨頂はその卓越した場面表現にあります。平らな画面でありながら、どこまでも深く、静かな世界へ引き込まれる「生きた空間」を、ぜひ会場でご体感ください。
 
今回の展示では、モチーフに何も描かれていない「青一色」の作品も1点特別に出展しています。視線が吸い込まれるような、底知れぬ奥行きを感じていただければ幸いです。
 
 

北鎌倉 葉祥明美術館
学芸員 長井

 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2026年7/25(土) 〜 9/25 (金)
葉祥明が描く水中の景色