葉祥明美術館

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 葉祥明は絵と本文の両方を自身で描く「創作絵本」以外にも、たくさんの挿絵絵本を手がけています。作者の想いが込められたお話しや詩に添える絵は、あくまでその言葉が主人公という気持ちで描いているといいます。
 
 葉祥明が広く知られるきっかけになった雑誌『詩とメルヘン』への掲載。この挿絵の依頼が葉祥明が主張せず、シンプルな風景画のスタイルを確立する要因でした。投稿された詩に添えるイラストを描く。この依頼は絵の上に言葉が印刷されることも想定されたものです。主張しすぎず、心地良く、綺麗なものを模索した結果、画面を水平線や地平線で描き分け、控えめに家や木・馬などのモチーフをおく代表的な作風になりました。その他にも、幼児向けの絵本をと請われ『どうぶつだいすき』(1983年,サンリオ出版)など、画面いっぱい動物を描く絵本も手がけています。
 
 求められた依頼にあった絵を一生懸命描く、人気イラストレーターとしての多忙な時期が、絵本作家としてデビューしてから10年以上続きます。その中のひとつに『かみさまへのてがみ』シリーズもありました。シリーズ三作、改版を含めると五冊になるこのシリーズが最初に出版されたのは 1977年『かみさまへのてがみ』。翌1978年に『かみさまへのてがみ もっと』が出版されます。アメリカの子供たちが神様に宛てた手紙をまとめた絵本はアメリカでは100万部を超え、世界での発行部数は合計2100万部のベストセラーです。日本で出版される際に、谷川俊太郎さんが翻訳し、挿絵を葉祥明が描きます。出版社からは「子どもが書いたような絵」という依頼のため、原作の子供達の純粋さを大切に、通常とは異なる画風で描いています。
 
 谷川俊太郎さんとの共作でしたが、当時 忙しかったお二人が会うことはなかったそうです。谷川俊太郎さんは既に詩集『二十億光年の孤独』で有名人で葉祥明にとって「詩人」は特別な存在で畏敬に値する方。「出版社でお見かけしても話しかける事も出来なかった」と回想しています。
 
 谷川俊太郎さんが訳した『かみさまへのてがみ』の中で印象に残る内容があると言います。葉祥明談【ひとつは「おとこのこって おんなのこより えらいの?…(一部抜粋)」。小さな子供でも、女の子はこう感じるほど抑制されているんだと、心に残った。それからこの言葉を心の片隅におきながら、弱者や女性に対する「大変な思いをしている」と想いを作品にも反映されるようになった。
もうひとつは「かぜをひくのはなんのやくにたつのですか?」という問い。
実際に自分でもずっとそう思っていた。それが50歳すぎた頃に本屋でみつけた『風邪の効用』という本を読み、答を得た。風邪は「休め」という合図なのだと。その時に休むことで、風邪を引く前より心身ともに良くなる(グレードアップする)と認識した。
 
子供の素朴な質問が心に影響を与えて、僕はずっと考え続けている。】
 
皆さんはどの言葉が心に残るでしょうか、子供たちの純粋な問いを”翻訳:谷川俊太郎、絵:葉祥明“にてご覧下さい。
 
 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2025年11月15日〜2026年1月16日
絵本『かみさまへのてがみ』展