葉祥明美術館

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葉祥明という人物に肩書きをつける時、概ね絵本作家・画家・詩人と添えます。事実、絵本作家としてデビューし、画家として絵を描き、詩作もします。他にもイラストレーターの仕事もこなすなど様々な創作活動を行ってきました。その創作に向かう姿勢は職人のようで、芸術家気質、はたまた世の中を俯瞰し哲学的に模索する様子は、私たちがよく知る優しい色合いの牧歌的な水彩画からは、一見しただけでは分からない深い想いを持っている作家であると感じます。以前あるインタビューで肩書きについて葉祥明はこう話しています。
 
《僕の作品は、実は未完の素材で、それを完成させ、味わうのは読者の皆様。僕の絵や言葉は、僕のものじゃない。水や光や空気は、誰かが作ったものじゃないし、誰のものでもないのと同じ。だから、僕の本は、光や水や空気と一緒なんだ。もっと言えば、僕自身も光や水や空気。そう考えると、だんだん人間じゃなくなってくるわけですよ(笑)。
肩書きに、「絵本画家・詩人」とあるけれども、「光、空気、水」と書きたいところです。》
 
光・空気・水、どれも地球上で生物が生きる上で大切なものです。葉祥明が描く絵本には社会問題をテーマにした作品も多くあります。メルヘン作家として活躍していた中で社会問題を主題とした作風に着手したきっかけは1986年のチェルノービリ原発事故でした。不可欠な「光・空気・水」が汚染され、地球の危機を感じメルヘン作家として光を描いていた絵に、陰も描くようになります。初めて陰を描いた絵本が『ぼくのあおいほし』主人公が放射能汚染された地球を離れる悲しい終わり方をします。悲しいままでは良くないと描いた、続編『あいのほし』は死滅した星が再生するお話です。
 
『あいのほし』の冒頭で、葉祥明が書いています。
≪もう、そろそろ、私たちは本当のことを知るべき時にきている-私たち人類は、何者で、なぜ存在し、何処へと向かうのか?これから、何が起こり、世界と自分たちはどうなるのか?私たちはどうすればいいのか? そんな根源の問いを私たちは真剣に考え、イメージし、子どもたちに伝えなければならない。≫
開催中の企画展「Love the Earth 私たちの地球」展はこの根源の問いを軸に、葉祥明が描いた地球の絵を紹介しています。様々な場面で描いた「地球」を紐解き、問いの答を模索出来ればと思います。
 

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フランスの画家、ポール・ゴーギャンの作品に『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』(D’où venons-nous? Que sommes-nous? Où allons-nous?)という有名な作品があります。葉祥明もこの作品のこのタイトルに感銘を受け、講演会などでもよく話題にしています。
 
 

  


 

 
■北鎌倉 葉祥明美術館 企画展 2025年12月14日〜2025年2月14日
Love the Earth『私たちの地球』展